Critique Of Games ―ビデオゲームをめぐる問いと思索―

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遅くすること、速くすること

 ゲームの進行速度は、速ければよいというわけでもないし、遅ければよいというわけでもない。  一般的には、ゲームの開始段階は、ゲームが早く進行していくような感触を抱かせる仕掛けをつくり、中盤からは「じっくりと」味わってもらうような構成にする、といったデザインの仕方が多い。(むろん、レベルデザインの手法次第では、それ以外のバリエーションもありうる)

 ゲームスタート時に、進行速度をはやめる理由としてはゲームの世界自体に入り込んでもらうための導入的な効果を高めるためである。  ゲーム中盤から「じっくり」と味わってもらうための理由としては、ゲーム自体を楽しんでもらうトータルの時間を長くすることでユーザーの満足度を上げることなどが挙げられる。*1

「進行」とは何か

 「進行」という概念には、

  • A.双六のマスをすすめる(必須ストーリーイベントの消化、ステージクリア)という意味合いと、
  • B.レベルアップ(パラメータ上昇)という意味での「進行」と、  二つを、分けて論じた方が見通しがよい。

1:進行速度を速くする(感じさせる)工夫

1A:双六のマスがどんどんすすむ:ストーリーがどんどん展開する

 多くのゲームで、導入部では、ストーリーが高速に進んだり、印象的な展開がある、といったことがなされる。特に魅力的な変わった設定を、導入部で見せる、ということも一般的である。  『FF』などでは、序盤だけでなく、中盤から終盤までノンストップに話が大きく二転三転し、スピード感のあるストーリーテリングがなされていることが多い。これは、『週刊少年ジャンプ』的、あるいはテレビドラマ的とも言えるマスマーケット向けの戦略としてはオーソドックスなものだろう。

1B:高速レベルアップ

 序盤では、ストーリーがどんどんと展開するのに併せてレベルアップもはやいものが多い。レベルアップという概念がないタイプのゲームでは、様々なアイテムが入手できたり、HPが上昇したりといった工夫がとられる。  そして、ほとんどのゲームでは、中盤から終盤にかけてレベルアップの速度が逓減してゆく(ゆるやかに遅くなる)。

1-例外:『ディスガイア』

 例外としては、『ディスガイア』などが挙げられる。『ディスガイア』では、レベルアップが、9999LVまで設定されており、16LVまでにする労力、32LVまでにする労力、64LVまでにする労力、128LVまでにする労力、256LVまでにする労力が、5時間、10時間、20時間、40時間…といった形で、増えてゆくのではなく、5時間、5時間、5時間、5時間…といった形で均等に割り付けられている。そのため、終盤に行くに従って、レベルが面白いほどインフレしてゆき、プレイヤーにゲームを続けるモチベーションを低下させないようになっている。その他にも、20人いるプレイヤーのうちの誰かが、一時間ごと急激に強くなるような感触を味わえるような工夫などもされており、「終盤の高速レベルアップ」によって、ゲームプレイを非常に中毒性の高いものにしている。

2:進行速度を遅くする

2A:双六のマスを進めない :脇道戦略

 ゲームの進行速度を遅くする工夫というのは、かなり工夫が求められる。  単に、プレイをすすめることが難しい「壁」となるような強い中ボス、難しい謎を配置しただけだと、ユーザーが挫けてしまい、途中でゲームを止めてしまうことなども考えられる。  強い中ボスや、難しい謎などの「壁」を配置すること自体は悪いことではないが、「壁」を乗り越えるための代替的な手段(数多くの脇道)にうまく誘導するようなナビゲーションを同時に行うような仕掛けもセットである必要があるだろう。た

  • 強い敵が倒せないから、スキルアップを工夫してみる、だとか。
  • サブクエストをまとめてクリアーしてみる、だとか。
  • メインのゲームモードとは異なるサブモードへの誘導(戦闘モードから学校モードへ、戦闘モードから探偵モードへ…など)
  • ミニゲームへの誘導  などといった方法が存在する。

 ただし、こうした手法は基本的には大規模開発形のアドベンチャー/RPGならではの解決策である。人海戦術で数多くのイベントを作ったりするような余裕がない状態ではなかなか難しい。

2B:低速レベルアップ:ゲームバランスによる「再挑戦度」の設計

 シンプルな作りのシューティング/アクションなどでは、それとはまた別の方法が求められることになる。  その方法は、古典的ではあるが、いわゆるゲームバランスの調整が重要になってくるだろう。中ボスなどのつよさを絶妙な具合に設計しておき「あとちょっとで倒せたのに…」ぐらいの悔しさの残る形で、ボスを配置してやり、リプレイをして少し上達すれば倒せなくもないかも、と思わせるような再挑戦を誘導するぐらいの適度な「壁」感を与えてやる。また、このとき、少年ジャンプ的な「絶体絶命のピンチ…!…次週を待て!」的なヒキを作るような物語展開もセットで与えてやるとより効果的。

2-例外:MMORPG

 進行速度の遅さ、を非常にうまく成功させているゲームジャンルとしてはMMORPGを挙げておきたい。スタンドアローンのRPGやアクション・アドベンチャーは人海戦術によってイベントや、ミニゲームを充実させるという、とても疲れる方法で問題に対処してきた。  一方で、MMORPGは、サブイベントや、ミニゲームは、ユーザー同士のコミュニケーションの中から無限に生まれるようになっている。そのため、「進行速度の遅さ」を維持したままでユーザーがゲームをプレイしてくれるという構造を保つことに成功している。もちろん、MMORPGであっても、バージョンアップや、クリスマスイベント、バレンタインイベントなどを定期的に投入することで、プレイのマンネリ感を解消させてやる工夫は必要になる。  MMORPGが、スタンドアロンのRPGとは全く違ったゲームデザインが可能になっている理由にはこうした背景がある。

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最終更新: 2009-11-25 (水) 11:16:04